自分たちの今できることを
すべて注いだ等身大の形

ASAKI インタビュー


●『SALARY BAY』完成おめでとうございます。ASAKIさんがtwitterで“無条件でカッコイイ”と言われていましたが、まさにそのとおりの作品ですよね。

うん。いい歳こいてなにやってんだとも思うけど(笑)。でも今回はすごくシンプルに考えて作ってて。この4人でどこまでも遜色のない世界を作ろうとしてて……だからすごい考えさせられたね。

●そうですよね。音はとてもシンプルなんですけど、すごく細部まで練られたアルバムだと思います。

俺の今までの経験とか通用しない世界だったからね。まずフトシがテーマのひとつとして掲げたものに“表裏一体”という言葉があって。表と裏は一体でもあるってことを音で表現したいと言ってきたから、まず「表と裏とは何ぞや?」ということから考えるよね。

●まずその言葉の意味から考えたと。

俺ってすごくステレオで広がることを考えて音楽をやってきたから。でも今回は完全にモノラルの世界なんだよね。50’sや60’sに近いというか。で、しかもオルタナじゃん。そこから考えながらだったから、ギターだけで40日くらいかけたんだけど。

●そうですよね。試行錯誤されているなとは感じてました。

なにせ1曲録るのに3~4パターン以上弾いて、それをさらに全部捨てたりしてたからね。今まではトラック数でいうと15チャンネルくらい使ってたのが、今回は結果的に2本とか3本だからね。そこにたどり着くまでに……精神的におかしくなってたよね正直(笑)。やるもんじゃないよ、こんなことは(笑)。

●今回は曲作りの段階から今までとは違ってますからね。

そうだね。時間的余裕をもって進めていったからね。フトシが言ってたけど、もうちょっと自分たちができることを研磨して作品を作りたいっていうのがあったから。ツアーの日程を先に決めるんじゃなくて、アルバムの完成時期を想定してから日程を決めようって。感覚としては1st『Heaven flower』の衝動に近いのかな。俺の中では『Heaven flower』は衝動で、2nd『Intuitionistic logic』は構築なの。で、この『SALARY BAY』は破壊っていうね。俺の中ではね。

●すごく当てはまっていると思います。

どんなアーティストでもそういう位置づけはあると思うんだけど。で、今回は破壊にあたるんだけど、でも破壊の中でも衝動に近くて。それが俺の中では“表裏一体”なのかなって。

●僕なんかが言うのはおこがましいですが、本当にvezという音が明確になった作品なのかなと。

そうだね、本当に等身大の4人が揃ったよね。だけど……願わくば次のアルバムのときはこんな思いはしたくないなぁ(笑)。それくらい自分的にはやられたね。それこそフトシの詞の世界を理解しないといけないし。彼のテーマで“絶望”っていうのもあるじゃない。それも受け止めるにあたって、自分もそうでないといけないと思っちゃって。だから……健康には良くない(笑)。

●ハハハハハハ。たしかにそうですよね(笑)。でもその試行錯誤の結果、とてもシンプルなものが導き出されるというのは面白いですよね。

そうだよね。初めての経験だよ、ここまで辿り着いたっていうのは。我ながらすごいアルバムを作ったなぁって思うよね。今回ギター録りでも、いわゆる編集ってやつをほぼしてなくて。頭から最後まで、全部弾ききるっていう感じで録ったの。昔のカセットテープでのやり方みたいな。

●まさに一発録りということですね。

そう。一発でバーン!とやんないと、邪念が入るというか。「Cut slider」なんて、俺ほぼ無呼吸で弾いてるからね。

●ハハハハハ。それは聴いてても感じます(笑)。

すっげえ難しいからねアレ。いやもう本当、やりきりましたよ。だから全員、満足感はすごいと思うよ。でも、シンプルにするのは若干怖かった自分もいてさ。どれだけ自分が裸になれるかまで研磨していったぶん、懸念した部分もあったから。

●たしかにアルバムとして着地点を見つけるのは難しかったのではないかと思います。

難しかったね。俺はね。何度も録っては捨てて、「あ、そうか!」っていうのを見つけていったからね。それこそ歌が入ってから弾き直したりもしたし。例えば「Evil of cell」のサビのギターとか、10パターンくらい作ってて、最終的に落ち着いたのはアレだったりするから。

●そういうこだわりは随所で活きてますよね。

あと俺は今回文字から入ってるところが多くて。本とか読み漁ったの。それこそ絵画の本とかも。“表裏一体”ってものを掴むために。絵画の中にある裏のテーマとか、リンゴがモチーフの絵だったら、そのリンゴが持っている意味合いとかさ。そういうものから想像して、音に反映させていこうかなと思ったんだよね。

●なるほど。シュルレアリスムの本とか紹介されてましたよね。

そうそう。ああいうのとかも読んで。そういうとこから入ったから、とっかかりとしては面白かったし、今までにはない作り方だったよね。だからちょっと異国情緒が溢れちゃう部分はあるけど。

●音のテイストに出てますよね。

そう、あくまでもニュアンスね(笑)。だから「Cut slider」のギターとか、きっとふつうに生活してるだけだったら出ない音だったりするからね。それを出せたのは、入口は本だったりした部分は大きいよね。だから、いい勉強になりましたよ。妙にうまくなったもん、ギターが(笑)。

●このキャリアにして(笑)。

そうそう(笑)。ていうか、みんなうまいんだよ! うまいけど、みんな破壊的なんだよね。だから、なかなかない3枚目ですよ。

●『Heaven flower』と『Intuitionistic logic』がありきだからこそなんでしょうが、そこから一気に突き抜けたような印象があります。

ね。ただみんな曲のインパクトがすごいからさ。逆になんか俺の作った曲だけハッピー空間になっちゃって(笑)。

●まあ尖ってますよね、みなさん(笑)。

本当だよね! 尖りすぎだよね(笑)。だからこそ、先輩だろうが後輩だろうがみんなに聴いてほしいよね。老若男女に。

●ですよね。ほかのメンバーのみなさんにも伝えたんですが、過去に少しでもそれぞれの音に触れたことがある人に、特に聴いてもらいたい作品だと思ったんですよね。

俺も思うよ。特に今回は過去の俺にはないアルバムだからね。まさか43歳でこういうことができるとは思ってもみなかったよね。でも俺からすると、ほかの3人が「そこまでやんのか!」って思って。ビックリしたよね。年甲斐もなくね(笑)。

●今40代のミュージシャンってみなさんタフじゃないですか。でも、それにしたってこの音の感触はすごいですよね(笑)。

本当だよね(笑)。1曲目の「Spinner」から優しくないよね(笑)。

●でもあの入口はすごく良いですよ。惹きつけられます。

だね。フトシを昔から知ってる人からすると、「きた! フトシの本気きた!」ってなるよね(笑)。まさに“絶望感”があるし。でもそれに付き合う俺は、どれだけ絶望しなきゃいけなんだろうって思ったよね(笑)。

●ですよね(笑)。でもアルバム全体にいえることですが、ASAKIさんのギターはとても直線的でありながら、メロディアスだったり遊び心もあったり、すごくアクセントになってますよね。

まあ、都会に憧れたオシャレボーイの弾くオシャレギターだからね(笑)。

●ハハハハハ。はい、すごくオシャレです(笑)。

それこそ「Spinner」とかも、いきなりフィードバックみたいな俺のギターが入るんだけど、たぶん聴く人は「お、やってんな」くらいかもしれないけど、あれも全部高速フル・ピッキングで弾いてるからね。俺からすると悲鳴に近いギター弾いてるから(笑)。あれも正直これからライブで弾かなきゃいけないのかと思うと……気が引けるよね(笑)。

●そうですよね(笑)。そしてライブでまだ披露してない曲ばかりですもんね。

そうそう。だから今回のアルバムのツアー、怖いんだよねちょっと(笑)。もちろんライブで叩きあげてきた曲ではないから。どう育つのか…というか、本当に育てられるのかって不安のほうが大きいよね(笑)。ちゃんとこの子たちに服とか着せられるのかなって。そんな不安はあるよね。

●ASAKIさんの作曲だと、本作は3曲収録されていますよね。特に「Sign」はとても優しい曲だなと。

そうだね。俺の色がすごく大きく出ちゃったよね。

●個人的に「Heaven flower」とリンクしたんですよね。どこか対になっているような気がして。

わかるわかる。なんだろうね。手癖ってわけではないし、意図して作ってるわけではないんだけど。でもこれが俺なのかなって。

●vezをやっていく中で、ASAKIさんの曲とフトシさんの歌のバランスがどんどん良い形になっていますよね。

そうだね。哀愁が洗練されてきてるよね。だからといって泣きではないんだけど……だからそれがvezなんだろうね。俺にもよくわかんないけど(笑)。

●たしかに泣けるというものではないですよね。

うん。でも…キュンとくるよね。だから「Sign」のサビとか聴いててキュンとくるし。

●アルバムの曲順もすごく良いですよね。

曲順だけで言うと、俺としては「夜虹」で締めると美しかったのかなって思うけどね。

●なるほど。たしかにきれいな終わり方ではありますよね。でも結果的には今までにない終わり方なので、これはこれで良いのかなと。

そうそう。「これで終わるの?!」っていうね(笑)。だからライブに近い流れなのかなって。

●音自体もすごくライブ感があって、迫力ありますよね。

そうだね。だからそれが今俺たちにできる形というか。ほかのなにかに頼らず、自分たちの今できることをすべて注いだ等身大の形だよね。着飾ることすらどうでもいいというか。

●そうですよね。本当に今の自分たちをそのままパッケージされているというか。

だからね、本当に悩んでるんだよ。ライブでどうやろうかって。とても中途半端にはできないし。いやぁ……困りましたね(笑)。

●ハハハハハ。とはいえ、お披露目となるライブ(8月21日の渋谷club asia)ももうすぐです。

うん。だから、逆にみんながどう受け止めてくれるのかは興味あるよね。こちらの思いとしては、全世界のロック・ファンに聴いてほしいってのはもちろんあるけど。受け取ってくれた人たちがどういう反応を返してくれるのかは、楽しみだね。俺らも使い捨てみたいなものを作ってるつもりはまったくないから。

●ですよね。本当にvezでしか聴けないロック・アルバムだと思います。

だよね。恐ろしいバンドだよvezは。正直ね……なんであのとき俺は「次のギタリストは俺だろ」ってフトシに言っちゃったんだろって、今軽く後悔してるからね(笑)。

●そういう意味での恐ろしさですか(笑)。でも、結果これだけの作品ができたわけですから。

うん、良いと思います! 男らしいアルバムだよ。

●4人のカラーはとても明確なんですが、同時にバンドとしての統一感もすごいですよね。

俺も最初「これまとまんのかな?」って思ってたからね。でもまとまるからすごいよ。4人の個性がこれだけ出てるのに。

●本当に今、こんなロック・アルバムを作れるバンドは希少ですよね。だからこそ、会場限定販売となりますが、今まで以上に多くの人に聴いてほしいですよね。

ね。本当に心からそう思うよ。心からみんなに聴いてほしいし、ライブに足を運んでほしいよね。勝手にダンスを踊ってくれていいし、振り付けとかつけてくれてもいいから、楽しんでほしいよね。

●ですよね。今回のツアーは間違いなく楽しいし、すごいものを体感できると思うので。ただ、やる側は大変でしょうが(笑)。

……そうだねぇ(苦笑)。体調万全にしてツアーに臨まないとね。本当に飲みすぎとか気を付けないといけないよね。さすがにストイックになろうかなと。ちゃんとします!これ書いておいてね。「ASAKI、ちゃんとする!」って(笑)。

●了解です(笑)。

ありきたりだけど「ロックしようぜ!」しかないよね。俺たちはいい歳こいて全然ロックしてるから、みんなも一緒にロックしようぜって。