このアルバムを持っていれば、
やれるだろうって希望的観測ができる

高木フトシ インタビュー


●アルバムを聴かせていただきましたが、フトシさんが言っている“渾身”という言葉がピッタリというか……とんでもない作品ができましたね。

厳密に言えばまだちょっとあるけどね。でも、今出来る限界はきっちりやりきったと思う。正直ね……めちゃめちゃ大変だった。

●だと思います(笑)。でも本当、聴いてて嬉しくなりました。ひさびさに音楽を聴いて泣いちゃいました。

ぜんぜん泣くような曲ないんだけどね(笑)。

●ないんですけどね(笑)。でもこのアルバムは今までvezを好きでいてくれた方たちはもちろん、聴く人たちのほうへ向いているアルバムになってると感じたんですよね。

あぁ。どうだろう。聴く人のことは考えてないけどね。あいかわらず(笑)。できるかぎり自分が聴きたい音というか、意識とか言葉とか。自分が聴きたいと思うロック像というか。それしかないけどね。

●でもそれが見事に昇華されていますよね。その意識が外にも出ているのかなと。

だね。それは嬉しかった。まあ、今のメンバーになってからもけっこう長くやってるからね。本当はもっと早くにやるべきことだったような気がするけど。だからタイトルにもそれはつながってて。これで俺たちは俺たちでやっとvezだと言えるかな。

●タイトルの『SALARY BAY』は、マダガスカルの小さな港町のことですよね。

そう。カヌーしか停まってないような港なんだけど。そこにいるベゾ族(vezo)って人たちがvezの名前の由来なんだよね。

●それをタイトルに持ってくるというのは、すごく意味がありますよね。

それもそうだし、温暖化の話もあって。そのメッセージがアルバムの裏側にはあるかな。海抜が上昇して、自分の住む場所が奪われていくことのつらさっていうのは、想像すらできないじゃん。だけどひどいなってのはわかるじゃん。そういう感じ。

●それがアルバムのテーマにあると。

テーマのひとつだね。あとは、資本主義と、産業革命以降の俺たちの負の部分とか。なんだったら産業革命以前のこととかまで紐解いたりはしたけどね。いつものように(笑)。

●あいかわらず(笑)。

あいかわらず(笑)。紐解いたりはしたけど、でもそれはもう受け取る人に委ねるというか。俺だけわかってりゃいいんじゃねえかと思って。でも震災以降の反省点として、やっぱり言わなきゃわかんないんだなっていうのもあるから。言いたいけど……難しいんだよ本当。俺自身、「じゃあどうする?」って手立てがないからさ。だからこそ、感じてもらうしかないんだよね。

●今までもそうですが、フトシさんの言葉が本作ではとても強いなと思いました。

うん。俺もそう思う。なんかタガは外れたよね。ただ、かと言ってそこで過激になればいいというものではないから。やっぱり人の心は大事だし、そこに訴えたくて音楽をやってるから。ロックンロールとしての深みみたいなものはどうしても持っていたいじゃん。俺たちにしかできないロックンロールをさ。ドロップ・アウトしてる人間にしか言えない言葉もあるじゃん。金持ってる奴が、「世の中金じゃねえ」って言っても説得力ないじゃん。そこは俺たちが言わなきゃさ。金以外の楽しみを知ってる奴がそれを言わなきゃね。

●もちろんそうですよね。

だからそれは全部通じてるのかなって思って。原発にしても。安保法案にしても。

●そういう意味だと、収録曲の「ill,,,」とか、とてもタイムリーなメッセージになってるような(笑)。

ハハハハハ。そうだね(笑)。だからそう、そういう感じでほくそ笑みながら聴いてほしいね。そういう部分もある。

●しかしこのメンバーでついにたどり着いたというか。vezという音楽がひとつ完成したのではないかと思います。

うん。でもやっぱりここに至るまで……約4年かかったのか。やっぱそれくらいかかるね。でもこの年齢でここに至ることができたというのは、本当幸せなことだと思う。過去のバンドに縛られずに、ちゃんと前進できるバンドをやれてるっていうことは。

●そういうノスタルジーな空気は一切ありませんよね。

ちゃんと“2015年”だもんね。2015年だからできた音というか。

●レコーディングは今までと違った部分はあるのでしょうか。

今回はね、プリプロの段階でみんなで曲をほぼ作ったかな。1曲1曲、今までより4人でアレンジしてる。だから、やり方の違いとかでぶつかることはあったけどね。そういうのは大変だったけど。だからこそ今回はプリプロ長くとったから。さらにいうと、その先のスケジュールを決めてなかったから。昨年末の段階で、もう本当におぼろげに「夏くらいにはアルバム出したいな」くらいしか。だからアルバム完成まで半年あればさすがに十分だろって思ったから。だから、やっぱりこれだけのものが作れたんだよね。……でも、あともうちょっとできたかな(笑)。

●貪欲ですね。でもそれは音楽家のいちばん大変な部分ですよね。

そうそう、キリないじゃん。だから俺的には気持ちの良いところではあるかもね。もうちょっとできたと思えるってことは、次もできるってことだから。だから次のアルバムはさらにもっと良いんじゃない。この経験を踏まえたものがあるから。

●そうですよね。でもこの音を必要としている人はたくさんいると思うんですよ。それこそ、過去に少しでもフトシさんの声や、ASAKIさんのギターや、成一さんのベースや、YANAさんのドラムを聴いたことがある人たちなら。

それは俺は最初から思ってるけどね(笑)。でも取っ掛かりとしては、『SALARY BAY』がいちばん良いだろうね。昔の俺らを知ってるんだったら。……まあ、俺は忘れちゃったけどね、昔のことは(笑)。

●言っちゃった(笑)。でも、僕なんかがあえてそういうことを言いたくなるというか。それくらいすばらしいアルバムだなって。

そうだね。昔の俺らを知ってる人にとって、これを聴かなかったら損はするね。

●フトシさんの歌声も非常にテンションが高いですよね。

たぶん今までになく一番がんばったからね。あとね、オート・チューンとかも使ってみたからね、今回。あとコーラスとかちゃんとやるとさ、なんかプロっぽくなるよね(笑)。

●ハハハハハハ。何年やってるんですか(笑)。

かれこれ20年くらいやってます(笑)。いやだって、今まで恥ずかしかったじゃん!

●そうそう、それも思ったんですよね。今までなら絶対恥ずかしがっていたことを今回やってるなと。

うん。恥ずかしくなくなったんだよな、なんか。

●でも、そうじゃないと「夜虹」の今回のアレンジは生まれませんよ。前のフトシさんなら、絶対に考えられません(笑)。

そうだね(笑)。でもみんなに歌ってほしいんだよな。そのイメージがあって「夜虹」の詞は初めて完結する気がするから。俺の中だけのアレだけど、目には目を持って、中東に行って「夜虹」を歌うっていうさ。そのイメージかな。それを日本人として堂々とありたいというか。そんなイメージがあるんだよね。みんなで「夜虹」を歌いたいというか。「子供達の歌を聴かせてほしい」(「夜虹」の歌詞)んだよ。それしかない気がする。

●そのためには、恥ずかしがってられないということですね。

そう。この前ササやんたち(佐々木モトアキ meets NOBUYAN’)とライブあったじゃん。そのとき一緒にジョン・レノンの「Imagine」を歌ったんだけど、俺が今までずっと避けてきた曲なんだよ。

●そうですよね。ほかのジョンの曲は歌うこともありましたが。

それがもうね…やっぱ胸にくるよねあの詞はね。いつ何時もね。で、歌いながら素直にそう思える自分で良かったなって。だから今までは恥ずかしかったけど…そこはちょっと変わったかな。

●作品の詞の中には随所に「夢」という言葉が出てきます。これもキーワードですよね。

現実に、いちばん大事なことな気がしたんだよな。資本主義が崩壊して、資本がなくなって、最終的に人間が人間を売るような形になるっていうのを本で読んでさ。実際今いろんなことがロボット化してさ、職を失ってる人たちがいるわけじゃん。それはもう人間が売られてるようなもので。さらにそれはこれからもっと進むわけじゃん。できる奴とできない奴の格差とかが、より明確になってくるわけじゃん。なら、当然できない奴は淘汰されるわけじゃん。なんかそんなのをいろいろ読んでたらさ……夢ねえなぁっと思って。

●現実的な話ですからね。だから「夢を見よう」と。

なさすぎだからさ、夢が。当然っちゃ当然なんだけど。だけど俺も夢を持てないひとりだから。だからこそ「夢を見よう」って。アルバムに「Sign」って曲があるんだけど、「夢を見よう」ってサインをみんなで共有できたらなって思ったんだよね。

●その“共有”っていうのも感じたんですよね。歌詞にある“君”という言葉が、まっすぐ聴き手に向かってる気がして。それって意外と今までなかったんじゃないかなと。

ないね。そもそも“絶望”から始まる作品でもあるので。その上で夢を見るとか共有するとかがあって。でも本当に大事なのは“自転”することなんだよ。個人個人が、ひとりひとりが自転するというか。自給自足ってことじゃなくてね。ちゃんと自転してないとダメだよなってのは感じたかな。それは惑星の在り方にもつながるし。ひとりでは生きていけないけど、しょせん人はひとりだってのもあるじゃん。だから、それはやっぱ自転して初めて人の痛みとかわかったりもするからさ。それはすごく大事で。

●そのメッセージは1曲目の「Spinner」に込められてますよね。

うん。なんかさ、自分自身すごく暗示とかにかかって生きているような気がしてさ。催眠とまでは言わないけど、それが世の中をダメにしてるような気がしてさ。

●だからこそ、“自転”しなければいけないと。

そう。だから俺、生まれて初めて疑い深くなったな、人に対して。今まではぜんぜん信じてたけど、信用できない人もいるんだなって勉強したから。だから、「Cry for you」 (「Spinner」の歌詞)って。君のために泣こうと思った。俺の催眠が解けるまでは。

●そんな「Spinner」の“絶望”から始まるから、すごく意味があるんですよね。

なんか「Spinner」がいちばんアルバムを象徴してるのかなって。だからMVもこの曲にしたんだよね。一言で語るんなら、この1曲で十分だなって感じがしたから。でも、全曲かっこよくまとまったよね。

●ロック・アルバムとしてとても水準の高い作品です。

そうね。今最もモテないタイプの音楽ね(笑)。

●ハハハハハハ。“ロック”なんてね(笑)。

でも今回はとにかく音が物語るから。それはすげえなって思う。だから「Spinner」のMVを観てくれた人がツアーに来てくれたら良いなって。想像するだけでワクワクしない? 「Spinner」で始まるライブはさ。

●すごく良い始まりが想像できますよね。MVも完成が楽しみです。

俺ね、生まれて初めてカメラ目線だから(笑)。

●そうなんですね(笑)。

そしてめっちゃめちゃ動いてるから。1週間くらい筋肉痛治んなかったもん。あとギターを膝くらいまで下げてるから、アザだらけになってさ。でもそれも“自転”につながってるのかなって。恥ずかしがってる場合じゃないだろって(笑)。

●そこは自ら示したと。

うん。でもかっこいい映像になってると思うので。

●楽しみです。その“自転”はアルバム制作においても意識されていたわけですよね。

ほんと今回は少しね、我が侭になったりとか。信じて、委ねはするけど、信じていないとか。作品はこれが最後かも知れないっていう危機感とかあって。

●それだけの覚悟で挑んだということですよね。

バンドはやっぱり、このメンバーでしか成し得ないものが作りたかったから。もちろん、怖い部分もあるよ。もうこの4人でしかできない音楽をやってるから。メンバー・チェンジとか考えられないからね。

●それも感じました。おそらく誰かひとりでも抜ければ、終わりますよね。

終わるよね。まったく別物になっちゃうからね。でもこの歳でそれがやれてるのがすげえと思うんだよな。

●すごいことですよ。しかもとても瑞々しいというか。同年代でもこれだけの音を出しているバンドはなかなかいないと思います。

だね。でも……孤独だよ(笑)。つくづく痛感してんの最近…。若いときは「死にたいなぁ」で済んだけど、今やそういうわけにはいかないからね。だからベランダで花を育ててんだよ。人となるべく関わらないようにしながら(笑)。

●都会の片隅で(笑)。

花を育ててる(笑)。それも6年くらいになるけど(笑)。

●そりゃツアーとか嫌ですよね(笑)。

いやいや、君たち誤解してるけどね。ライブはやりたいんだよ俺。

●いや、それは理解してますよ(笑)。

ただ、歌に忠実な気持ちを持ち続けるのがすごく大変なので。それでいっつも折れちゃうから。だから「もう帰りてえ」ってなっちゃう。だからさ……頼むからみんな東京来てくれよ~!

●ハハハハハ。アルバムを最短で手に入れられるのは、8月21日の渋谷CLUB ASIAですよね。

もうね、全国から集まってほしいね。ほら、広いところ借りちゃったから(笑)。

●それはちゃんと書いておきます(笑)。8月21日はぜひ皆様渋谷CLUB ASIAへお集まりいただき、『SALARY BAY』をゲットしてくださいと。

頼むから書いておいて(笑)。俺も北海道とか福岡とか行くからさ。そっちも来てくれよー!

●そしてツアー・ファイナルも新宿LOFTですね。

そう、ギャンブル(笑)! でもこのアルバムを持っていれば、やれるだろうって希望的観測ができるから。そう思わせてくれるんだよな。今の世の中に、それをどれほどの人が必要としているかはわかんないけど。少なからず俺には必要なんだよ、『SALARY BAY』は。そんな音だね。